損益分岐点の計算方法とは?小さな会社の「必要売上高」が分かる実務5ステップ

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この記事は、売上はあるのに利益が残らないと感じている小規模事業者、開業準備中の方、従業員1〜20名程度の会社の経営者・経理担当者向けです。「毎月いくら売れば赤字を避けられるのか」「値上げや仕入改善で利益はどれほど変わるのか」を、難しい会計用語をできるだけ使わずに整理します。
売上目標を決めるとき、前年より10%増といった数字だけを掲げていないでしょうか。売上が増えても、仕入や外注費が同じ割合で増えれば、期待したほど利益が残らない場合があります。一方、家賃や人件費などの固定費は、売上が落ちてもすぐには減りません。そこで役立つのが「損益分岐点」です。
損益分岐点は、利益がちょうどゼロになる売上高の目安です。計算には、売上に応じて増える費用と、売上にかかわらず発生する費用を分ける必要があります。厳密な分類が難しい会社でも、最初は概算で構いません。毎月の数字を見える化するだけで、価格設定や受注判断、設備投資の前に確認すべき点が見つかります。
この記事では、神戸の小さなパン店を想定した計算例を使い、損益分岐点売上高、目標利益に必要な売上高、値上げ・コスト見直しの効果を順に説明します。最後に、経理資料の集め方、確認チェックリスト、相談の目安もまとめました。金額はすべて説明用の仮定であり、実際の会社の数値ではありません。
結論|損益分岐点の計算で押さえたい3つのポイント
1.必要売上高は「固定費÷限界利益率」で考える
損益分岐点売上高は、基本的に「固定費÷限界利益率」で計算します。限界利益率とは、売上高から変動費を差し引いた金額が売上高に占める割合です。例えば限界利益率60%、月の固定費120万円なら、損益分岐点は200万円です。売上200万円で計算上の営業利益がゼロになる、という意味です。
出典:中小機構(J-Net21)|損益分岐点を使った目標売上高
2.「売上を増やす」以外にも利益改善の方法がある
同じ売上でも、仕入・材料費の比率を下げる、適正な価格へ見直す、固定費の使い方を改善することで利益は変わります。ただし、安易な値下げや人員削減が品質・顧客満足・働きやすさを損なわないかも確認しましょう。数字は施策を選ぶ材料であって、現場を一律に動かす命令ではありません。
3.損益分岐点と資金繰りは別々に確認する
損益分岐点は主に利益の分析です。借入金の元本返済や設備購入の支出、売掛金の入金遅れまで表せるわけではありません。「黒字になる売上」と「現金が足りるか」は別の表で確認します。両方を並べると、必要な売上目標をより現実的に設定できます。
背景|売上が増えても利益が残らないのはなぜ?
まずは固定費・変動費・限界利益の違いを知る
変動費は、販売量や受注量に応じて増減する費用です。小売店なら商品仕入、飲食店なら食材・容器、製造業なら材料費や生産量に応じた外注加工費などが例になります。固定費は、売上がゼロでも比較的発生しやすい家賃、基本給、リース料、減価償却費などです。実際には電気代や人件費のように両方の性質を持つものもあります。
中小機構のJ-Net21でも、変動費と固定費を分けて利益がゼロになる売上高を求める考え方が説明されています。完全な分類が難しい場合には、経営分析の目的に合わせて簡便的に区分することが実務的です。税務申告上の勘定科目や経費の認否を、この分類だけで変更するものではありません。
出典:中小機構(J-Net21)|損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください
限界利益は「売上高-変動費」です。例えば100万円売り上げ、その売上に対応する仕入・材料費などが40万円なら、限界利益は60万円、限界利益率は60%です。この60万円から家賃や人件費などの固定費をまかない、残った分が利益になります。限界利益率は、単なる売上総利益率(粗利率)と一致するとは限りません。販管費に含まれる販売手数料なども変動費になり得るためです。
具体例|神戸のパン店を想定した月次モデル
ここからは、月商240万円、変動費96万円、固定費120万円の小さなパン店を仮定します。売上・費用はすべて消費税抜きでそろえ、棚卸や売上原価の計上が済んだ月次数字を使う前提です。実際の店の実績ではありません。
月次モデル
項目 | 月額 | 計算の意味 |
売上高 | 2,400,000円 | 1か月の売上 |
変動費 | 960,000円 | 売上高の40% |
限界利益 | 1,440,000円 | 売上-変動費 |
固定費 | 1,200,000円 | 家賃・基本給など |
営業利益(簡易) | 240,000円 | 限界利益-固定費 |
変動費率は96万円÷240万円=40%、限界利益率は60%です。したがって損益分岐点売上高は、120万円÷0.6=200万円となります。月商240万円なら、損益分岐点より40万円上回っています。この差を売上高で割った「安全余裕率」は約16.7%です。あくまで費用構造が同じという前提の目安で、売上が約16.7%減れば利益がゼロに近づく計算です。
出典:中小機構(J-Net21)|損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください
目標利益を30万円にしたい場合
必要売上高は「(固定費+目標利益)÷限界利益率」で求めます。この店で月30万円の営業利益を目指すなら、(120万円+30万円)÷0.6=250万円です。現在の月商240万円から10万円の増収が必要という計算になります。ただし、追加売上に必要な残業代や広告費が増えれば、その分も変動費・固定費の見積りに反映してください。
出典:中小機構(J-Net21)|損益分岐点を使った目標売上高
価格と原価の改善は「仮説」として試算する
例えば1個600円の商品で、販売1個当たりの材料・包装などの変動費が240円なら、1個の限界利益は360円です。固定費120万円をまかなうには約3,334個の販売が必要です。仮に売価を650円に上げ、変動費が240円のままなら、1個の限界利益は410円となり、計算上の損益分岐点販売数量は約2,927個まで下がります。
ただし、値上げ後も同じ数量が売れるとは限りません。販売数量の減少、競合価格、品質、原材料高騰を合わせて確認します。反対に原価を下げるときも、仕入先への無理な値下げ要請や品質低下につながらない方法を優先します。数字を試算し、少量・短期間で試し、実績で確かめる順番が大切です。
今すぐできる対策|損益分岐点チェックリスト10項目
□ ① 直近3〜6か月の月別売上高を確認した
□ ② 売上と費用の集計期間を同じ月にそろえた
□ ③ 仕入・材料・外注など売上に応じる費用を洗い出した
□ ④ 家賃・基本給・リース料など固定的な費用を整理した
□ ⑤ 電気代・パート人件費など混合費用の扱いを決めた
□ ⑥ 仕入と売上原価を混同せず、必要なら棚卸を反映した
□ ⑦ 消費税を含む・含まないの基準を統一した
□ ⑧ 限界利益率と損益分岐点売上高を計算した
□ ⑨ 目標利益に必要な売上高と安全余裕率を確かめた
□ ⑩ 借入返済・納税・設備投資は別途資金繰り表で確認した
最初から完璧な数字がそろわなくても構いません。例えば費用のうち8割を分類し、残りを「要確認」としておくだけでも、経営者と経理担当者が同じ数字を見て話しやすくなります。重要なのは、推計した数字を確定した実績と混同せず、前提を残しておくことです。
よくある失敗と回避策|数字を使う前に確認したい5つのこと
失敗1|売上高から仕入だけを引いて「利益」と考える
仕入以外にも、人件費、家賃、手数料、通信費などがかかります。粗利が十分でも固定費が大きければ赤字になる場合があります。限界利益と固定費を分け、最後に営業利益まで確認しましょう。特に開業前は、オープン後に増える人件費や光熱費を見落としがちです。
失敗2|月末に買った在庫をそのまま当月の売上原価にする
仕入れた商品がすべてその月に売れるとは限りません。商品の棚卸を反映しないまま仕入額だけで変動費を計算すると、月ごとの利益率が大きくぶれる場合があります。売上に対応する売上原価を確認し、在庫の多い業種では月次の棚卸・在庫管理も見直します。
失敗3|家賃と基本給以外はすべて変動費にする
広告費や電気代、パート人件費などは、契約や勤務シフトによって固定的な部分と変動する部分があります。会計科目名だけで機械的に分けず、「売上が10%増えたら、この費用も増えるか」を担当者と確認すると分類しやすくなります。分類が不確かな費用は注記しておきましょう。
失敗4|価格を上げれば利益も同じ割合で増えると考える
値上げは限界利益率を改善する可能性がありますが、販売数量が減ることもあります。価格だけを変えた机上計算に加え、数量が5%・10%減った場合も試算しましょう。顧客への説明や商品価値の見直しと組み合わせることが現実的です。
失敗5|損益分岐点を超えれば資金も足りると思い込む
利益と現金の動きは一致しません。売掛金が未回収でも売上が計上されることがあり、借入元本の返済は通常、営業利益の計算に直接は出てきません。月次の利益分析とは別に、3か月程度の入金・支払予定を確認します。損益分岐点は資金ショートを予測する万能の数字ではありません。
具体的な進め方|必要売上高を出す実務5ステップ
STEP1|直近の月次試算表と売上データを集める
まず直近3〜6か月の月次試算表、売上集計、仕入明細、給与・家賃・外注費の資料をそろえます。季節性が強い業種なら前年同月も比較します。月次試算表が未完成の場合は、入金・請求・仕入の計上漏れや未払費用などを確認し、確定値と概算値を区別します。現金売上やキャッシュレス売上の集計基準も統一してください。
STEP2|費用を「変動」「固定」「要確認」に分ける
例えばパン店なら、販売したパンに対応する材料費・包装費を変動費、家賃・固定給・リース料を固定費と仮置きします。カード決済手数料は売上連動型なら変動費として考えられます。水道光熱費は基本料金と使用量の増減があるため、要確認に置いても構いません。費用の性質を説明できるよう、分類表に判断理由を一言残します。
STEP3|限界利益率と損益分岐点を計算する
集計した売上高から変動費を引き、限界利益を出します。次に限界利益÷売上高で限界利益率を計算し、固定費÷限界利益率で損益分岐点売上高を求めます。売上がゼロの場合や限界利益率がゼロ以下の場合は、通常の式で有用な損益分岐点を算出できません。原価構造や価格設定を優先して見直してください。
出典:中小機構(J-Net21)|損益分岐点を使った目標売上高
STEP4|目標利益を加え、3つの改善案を比較する
目標利益を決めたら、必要売上高=(固定費+目標利益)÷限界利益率で試算します。続いて「売上を増やす」「変動費率を下げる」「固定費を見直す」の3案を比べます。例えば月商240万円・固定費120万円の例では、限界利益率60%なら必要売上250万円、65%に改善できれば約230.8万円です。ただし改善コストが別途かかる場合は加算し、実現可能性を検討します。
STEP5|毎月、計画と実績の差を確認する
一度計算して終わりにせず、月末に売上高、変動費率、固定費、営業利益を更新します。差が出たら「販売数量」「単価」「原価」「人件費」「一時費用」のどこが変わったかを確認します。目標未達の原因が分かれば、翌月に試す施策を一つか二つに絞れます。会計入力の締め日と経営会議の日を決めておくと、継続しやすくなります。
使い方の工夫|業種別に見る数字を変える
飲食・小売なら商品別の粗利と廃棄、製造業なら製品別の材料費・外注費、サービス業なら案件別の外注費と担当者の稼働時間を確認すると改善点を見つけやすくなります。全社で一つの限界利益率を使うだけでは、利益率の違う商品・サービスの構成変化を見落とすことがあります。商品群や部門別の表も併用すると、売上増加が本当に利益につながっているか確かめられます。
外注・相談する判断基準|数字を集める段階で止まったら
「月次試算表が2〜3か月遅れている」「仕入や在庫の数字が毎月合わない」「売上は増えたのに現預金が減る」という場合は、損益分岐点の計算式より先に、日々の経理の流れを整えることが大切です。数字の正確さに不安があるまま、計算結果だけを使って値上げや人員計画を決めるのは避けましょう。
まずは資金繰り表の作り方 を読むと、利益と入出金の違いを整理できます。月次の経理資料が整わない場合は、バックオフィス代行とは? で自社対応と部分外注の分け方を確認できます。改善施策を事業計画に落とし込む段階では、経営力向上計画とは? も参考になります。
ぴくさぽは、70年以上にわたり神戸・尼崎を中心とした阪神地域の小規模事業者を支援し、記帳代行、給与計算、労働保険事務などの実務をサポートしてきました。売上や費用の資料整理、月次の経理業務の見直しについて、何を聞けばよいか分からない段階から相談できます。税務申告・個別の税務判断など資格が必要な業務は税理士等の専門家への確認・連携を前提とします。
兵庫県・神戸市・尼崎市で経営改善を相談する場合
損益分岐点の計算方法は全国共通の経営分析であり、兵庫県だけに別の計算式や法定基準があるわけではありません。一方、地域の支援窓口は活用できます。兵庫県は2026年5月11日、同年4月に兵庫県よろず支援拠点内へ「生産性向上支援センター」を新設したと公表しました。小売・飲食・サービス業など幅広い業種を対象に、経営診断を含む無料の伴走型支援を案内しています。受付方法や支援対象は最新の公式案内で確認してください。
出典:兵庫県|兵庫県よろず支援拠点内に「生産性向上支援センター」を新設(2026年5月11日)
よくある質問|損益分岐点の疑問を整理
Q1.開業前でも損益分岐点を計算できますか?
はい。予想売上、商品原価、家賃、人件費などの見込み額から試算できます。ただし、開業直後は客数や原価率が安定しないため、売上が想定より10%低い場合、材料費が5%高い場合など複数の条件で確認しましょう。開業後は実績に置き換えることが大切です。
Q2.売上総利益率(粗利率)をそのまま限界利益率にしてよいですか?
必ずしも一致しません。売上原価以外にも、売上に応じて増える販売手数料や配送費などがあれば変動費として検討するためです。まずは実務上の分類表を作り、どの費用を含めたかを明記しましょう。部門ごとに費用構造が違う場合は、部門別の計算も有効です。
Q3.従業員の給料は固定費ですか、変動費ですか?
基本給のように毎月一定の部分は固定費として扱いやすい一方、販売量に応じた歩合給や追加シフトなどは変動的な性質があります。実際の雇用契約や働き方に応じて判断します。経営分析上の分類は、労働法上の賃金支払義務や税務処理を変更するものではありません。
Q4.損益分岐点を超えているのに銀行残高が減るのはなぜですか?
売掛金の入金時期、在庫の仕入、借入元本返済、設備投資、納税などが影響するためです。損益分岐点は利益の目安、資金繰り表は現金の出入りの見通しとして併用してください。利益が出ていても資金が不足する場合があるため、売上目標だけで判断しないことが大切です。
Q5.毎月の数字が確定しない場合、計算しても意味がありませんか?
概算でも、仮定を明記すれば経営の方向を考える材料になります。ただし、在庫、未払費用、売上の計上漏れが大きい場合は、結論が変わる可能性があります。まず数値の不確かな箇所を一覧にし、重要な費用から確認します。数字が整っていないこと自体が、経理改善の出発点です。
まとめ|損益分岐点は「無理のない売上目標」を考える道具
損益分岐点の計算は、固定費と変動費を分け、限界利益率を求めるところから始まります。月商240万円、変動費率40%、固定費120万円の例なら、損益分岐点は200万円、月30万円の営業利益を目指す必要売上高は250万円です。計算結果を見れば、売上を増やす以外にも、原価率や固定費の見直しという選択肢が見えてきます。
ただし、売上構成や費用の性質は会社ごとに違い、価格改定が販売数量に与える影響も一律ではありません。まず直近の月次数字をそろえ、前提を明記し、改善案を一つずつ検証することが大切です。借入返済や納税などの現金支出は、資金繰り表で別に確認しましょう。
神戸・尼崎・阪神地域で「売上目標を数字で考えたいが、経理資料が整理できていない」「毎月の利益が見えない」という場合は、ぴくさぽへご相談ください。開業前や、相談内容を言葉にできない段階でも構いません。日々の記帳・経理業務の整理から始め、専門判断が必要な部分は適切な専門家と連携して進めます。

