経理担当者の引継ぎは何から始める?小さな会社のチェックリストと実務5ステップ

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【対象読者】従業員1~20名程度の会社・個人事業主で、経理担当者の退職、産休・育休、長期休暇、異動、急な欠勤に備えたい経営者や総務担当者に向けた記事です。「経理の引継ぎは何から始める?」「会計ソフトや通帳の管理を誰が引き継ぐ?」という疑問に答えます。
経理担当者が一人だけの会社では、毎月の請求書発行や振込、給与計算、会計入力が「いつもの担当者だから分かる」状態になりがちです。ところが、その担当者が急に休むと、支払期限や銀行の承認手順、取引先への請求方法を誰も説明できず、社長が通帳やメールを探すところから始めることがあります。引継ぎの問題は、担当者の能力や努力ではなく、業務の流れが会社の共有財産になっていないことにあります。
そこで本記事では、経理担当者の引継ぎを「業務一覧」「締切と承認」「データ・証憑」「残高の確認」「代行できるかの実演」の五つに分けます。担当者の退職が決まっていなくても始められる、10項目のチェックリストと引継ぎ台帳の記入例を用意しました。神戸・尼崎をはじめ全国の小規模事業者で使える内容です。税務上の保存義務や情報管理については国の公的資料を確認し、地域の支援制度は全国共通ルールとは区別して紹介します。
結論|経理担当者の引継ぎで最優先の3つ
①「何を、いつ、誰がするか」を1枚で見える化する
最初に作るのは分厚いマニュアルではなく、月次・年次の業務一覧です。たとえば「毎月5日までに売上請求書を発行」「10日に給与振込データを準備」「月末までに銀行明細を確認」のように、作業、期限、担当、確認者、保存先を一行ずつ書きます。社内の実際の締切を記載し、法定期限と混同しないことも大切です。
②会計ソフトだけでなく、証憑と承認経路まで引き継ぐ
会計ソフトの操作が分かっても、請求書の原本や振込の承認権限が分からなければ仕事は止まります。取引先ごとの例外、請求書の保管場所、支払承認者、顧問税理士との連絡方法まで一つの台帳にまとめましょう。IDやパスワードを共有表に書き込むのではなく、正規の権限付与・変更手続を記録します。
③引継ぎ完了は「後任が一度できたか」で判定する
説明を聞いただけでは、実務で抜けが出ます。後任者が請求、入金照合、支払準備、月次締めを実際に行い、前任者または経営者が確認する時間を確保してください。残高差異や未処理案件は消さずに一覧化し、「誰が、いつまでに調べるか」を残すと、引継ぎ後のトラブルを減らせます。
背景|小さな会社ほど「担当者しか分からない経理」が生まれやすい
小規模事業者では、経理担当者が電話応対や総務、給与、請求業務を兼ねることもあります。取引先ごとに異なる支払条件や、長年使ってきたExcelの計算式は、担当者の頭の中だけに残りやすいものです。引継ぎを「会計ソフトの使い方」だけに限定すると、実際に必要な判断や例外処理が抜けてしまいます。
一方、帳簿や取引資料には保存義務があります。法人の帳簿・書類は、法人税上、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存し、一定の欠損金が生じた事業年度などでは10年間となります。消費税の仕入税額控除に関する帳簿・請求書等には別の保存要件があり、個人事業主の保存期間も区分により異なります。「担当者が退職したので資料がない」は避けたい状況です。
出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
また、メールやWebから受け取った請求書など、電子取引データについては電子帳簿保存法の確認が必要です。引継ぎでは保存方法を勝手に変更せず、既存のルールと法令上の要件を確認します。個人情報を含む給与資料についても、誰でも開ける共有フォルダへ移すのではなく、業務に必要な人だけがアクセスできる管理を考えます。
出典:個人情報保護委員会|アクセス制御に関するFAQ Q10-18
情報セキュリティの観点からも、担当者の個人パソコンだけに重要データがある状態は望ましくありません。IPAが2026年3月に公開した中小企業向けガイドライン第4.0版では、バックアップの重要性が改めて示されています。経理の引継ぎは、会社の業務継続と情報管理を同時に整える機会です。
出典:IPA|中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版
今すぐできる対策|経理引継ぎチェックリスト10項目
次の10項目について「済・未・要確認」を付けてください。全項目を一度に完璧にする必要はありません。未確認のものを見える化するだけでも、引継ぎの優先順位が決まります。
1.月次・年次の作業を洗い出したか
請求、入金消込、経費精算、支払、給与、会計入力、月次締め、決算準備を列挙します。季節ごとの処理も忘れないようにします。
2.各作業の社内締切を明記したか
「毎月末」だけでは曖昧です。締切日、休日の場合の取扱い、前工程から資料を受け取る日を決めます。
3.承認者と代行者を決めたか
入力する人と振込を承認する人を分け、社長不在時の代替経路も整理します。銀行契約上の権限設定を確認します。
4.取引先別の例外を記録したか
締日、支払サイト、請求先部署、相殺や手数料の取扱いなど、毎月口頭で確認している内容を残します。
5.会計ソフトとデータの保存先が分かるか
会社名義の契約、管理者、バックアップ先、復元方法を確認します。共有ID・パスワードの平文保存は避けます。
6.通帳・カード・現金の照合方法が決まっているか
口座一覧、締め時点の残高、未記帳の取引、カードの締日と引落日を確認します。
7.請求書・領収書の保管ルールが明確か
紙と電子の受領方法、保存先、ファイル名、保存担当を整理し、電子取引データの保存要件を確認します。
8.給与・個人情報の閲覧権限を限定したか
給与台帳、扶養情報、マイナンバーなどは通常の取引書類と分け、必要な権限だけ付与します。
9.税理士・社労士・金融機関の連絡先を整理したか
外部窓口の担当者、相談できる範囲、資料の受渡方法、承認が必要な事項を明記します。
10.後任者が実演し、未解決事項を残したか
少なくとも重要な月次作業を一度実施し、差異や未処理を引継ぎ台帳へ記録します。
出典:IPA|中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版
出典:個人情報保護委員会|アクセス制御に関するFAQ Q10-18
よくある失敗と回避策|5つのつまずき
失敗1|前任者の説明を録音・メモしただけで終える
会議で説明を受けても、実際の請求書発行や振込データ作成では操作順が抜けがちです。回避策は、後任者に本番に近い作業を一度してもらうこと。説明資料には「どの画面を開くか」よりも、確認すべき数字とエラー時の連絡先を入れましょう。
失敗2|会計ソフトのログイン情報だけ引き継ぐ
会計ソフトへ入れても、銀行の承認や取引先の請求先変更ができなければ業務は止まります。ソフト、銀行、給与、メール、クラウドストレージなどを別々に棚卸し、権限の移管・停止を管理者が実施します。退職者のアカウントを残したままにしないことも重要です。
出典:IPA|中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版
出典:個人情報保護委員会|アクセス制御に関するFAQ Q10-18
失敗3|前任者が未処理の仕訳をすべて「仮払金」で片付ける
残高が合わないからといって、内容不明の取引をまとめて別科目に移すと、後で原因が追えなくなります。未処理・不明点・証憑不足は別一覧にし、取引日、金額、相手先、調査担当を残しましょう。税務上の判断や仕訳の修正は、必要に応じて税理士へ確認します。
失敗4|給与情報を一般の共有フォルダに置く
引継ぎのために資料を集約しても、給与明細や個人番号関連情報を全員が見られる状態にはできません。共有の利便性と閲覧権限は別問題です。人事・給与の保存先はアクセス権を限定し、閲覧・変更権限の付与と削除を管理しましょう。
出典:個人情報保護委員会|アクセス制御に関するFAQ Q10-18
失敗5|「新しい担当者が慣れたら整理する」と先延ばしにする
引継ぎ直後は日々の支払や請求で手いっぱいになり、改善作業は後回しになりやすいものです。最初からすべてを作り直すのではなく、毎週15分だけ未解決事項を確認し、翌月までに一つずつ標準化すると継続しやすくなります。
具体的な進め方|経理担当者の引継ぎ5ステップ
STEP1|最初の30分で「業務・期限・承認」を一覧にする
前任者と後任者、可能なら経営者も同席し、直近1か月の実務を時系列で書き出します。請求、入金、支払、給与、会計入力、資料提出の順に並べ、「作業者」「確認者」「期限」「使う資料」「保管先」を記入します。担当者の退職が未定でも、社長と経理担当者の二人で実施できます。
ここで大切なのは、会計入力と支払承認を同じものとして扱わないことです。会計ソフトで伝票を作る人と、銀行から実際に資金を動かす権限を持つ人は、会社の実態に合わせて明確に分けてください。
STEP2|「引継ぎ台帳」を作り、資料の所在を記録する
Excelでも共有ドキュメントでも構いません。台帳の項目は「業務名/頻度・期限/担当・承認者/利用システム/証憑の保存先/注意点/引継ぎ状況/未解決事項」。ただし、台帳にはパスワードそのものを書かず、正規のアカウント申請先や管理者を記録します。
業務 | 期限の例(社内ルール) | 確認する資料・引継ぎポイント |
売上請求 | 毎月5日 | 請求先一覧・締日・請求書番号・送信履歴 |
入金照合 | 毎週金曜 | 銀行明細・請求一覧・未入金リスト |
仕入支払 | 毎月25日 | 請求書・承認者・振込予約・二重払い防止 |
月次締め | 翌月10日 | 未払・前払・カード明細・残高確認表 |
給与処理 | 社内の支給日基準 | 勤怠・手当控除・確認者・閲覧権限 |
この表の日付は説明用の社内設定例であり、全国共通の法定期限ではありません。実際の契約・就業規則・会社の運用に合わせて調整してください。
STEP3|銀行・会計・請求の数字を同じ基準日で確認する
引継ぎ前の最終月を決め、預金残高、現金残高、売掛金、買掛金、未払費用、クレジットカード未払などを確認します。残高が合わないときは「何月何日現在の数字か」「どの取引が未入力か」「どの資料がないか」を分けて調べます。決算書と通帳の残高が単純に一致しないこともあるため、未取付の取引や仕訳を確認します。
例として、売掛金の帳簿残高が52万円、請求別の未回収一覧が49万円なら、差額3万円を「誤差」として消さず、入金済みなのに消し込んでいない請求、値引き、二重計上などを調べます。原因が確定するまで差額の理由と担当者を台帳に残しましょう。
STEP4|後任者が一連の作業を実演する
次の請求締め日や支払準備日を利用して、後任者が作業し、前任者が確認します。見ておきたいのは、操作の速さではなく「確認を飛ばさないか」「例外を報告できるか」「支払承認を勝手に進めないか」です。現場で迷った箇所は、その場でマニュアルへ追記します。
もし前任者が急に退職している場合は、社長が管理権限と資料を確保し、銀行やソフト会社に正規の復旧・権限変更手続を確認します。パスワードを推測したり、本人の私物端末を無断で開いたりせず、必要なら専門家の助言を受けて進めてください。
STEP5|引継ぎ後1か月は週次で点検し、改善を残す
引継ぎ完了日を決めても、月末締めや翌月請求を経験するまでは確認期間が必要です。毎週「期限漏れ」「未処理」「残高差異」「権限不足」「外部への確認事項」を5分野で見直します。担当者が替わったことを機に、不要な二重入力や紙の受渡しを減らす改善も検討しましょう。
なお、紙の請求書をスキャンしたり、電子で受け取ったデータの保存先を変更したりする場合は、電子帳簿保存法の要件を確認します。引継ぎの効率化を理由に、法令上保存すべき資料を消去しないことが基本です。
外注・相談する判断基準|経理の引継ぎを会社の仕組みに変える
経理担当者の引継ぎを社内で進めやすいのは、業務量が少なく、月次の作業一覧があり、経営者が支払承認と残高確認を行える場合です。反対に、担当者が一人で銀行振込・会計入力・給与・税理士対応まで抱え、社長も内容を把握していない場合は、部分的な外注や専門家への相談を検討する価値があります。
まず「入力作業を外注するのか」「請求・入金の照合を仕組み化するのか」「給与や社会保険の手続を整理するのか」を切り分けてください。すべてを丸ごと委託する必要はありません。承認権限や経営判断は会社側に残し、定型的な作業を分担する方法もあります。
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神戸市の事業者には、経理業務のデジタル化を考える際に確認できる地域制度もあります。2026年度の神戸市中小企業DX推進支援補助制度では、システム導入事業の公募は2026年8月7日で終了しています。一方、DX人材育成事業は2027年1月29日17時までを公募期間として案内しています。ただし、神戸市内の事業所、税の申告・納付状況、DXお助け隊によるヒアリング、研修内容・時間などの要件があり、単なる経理の引継ぎ研修が自動的に対象となるわけではありません。申請前に最新の公募要領を確認してください。
出典:神戸市|2026年度 中小企業DX推進支援補助制度〈DX人材育成事業〉
尼崎市など神戸市外の事業者に神戸市の補助制度がそのまま適用されるわけではありません。地域の制度を探す場合も、まず自社の所在地、事業内容、募集期間、対象経費を確認しましょう。制度に該当しなくても、業務一覧と引継ぎ台帳を整える取り組みは全国共通で役立ちます。
ぴくさぽは、神戸・尼崎を中心とした阪神地域で70年以上、中小事業者の記帳、給与計算、労働保険事務、経営支援などを行ってきました。「経理担当者が辞める前に何を準備するべきか分からない」という段階でも、資料整理や業務分担の相談から始められます。税務申告や個別の税務判断、法的な判断が必要な場合は、税理士・社会保険労務士・弁護士・司法書士等との連携を検討します。
よくある質問|経理の引継ぎFAQ
Q1.経理担当者の引継ぎは何週間前から始めればよいですか?
法律で一律に「何週間前」と定められたものではありません。社内の月次締めを少なくとも一度は後任者が経験できるよう、可能な限り早く始めるのが実務的です。退職まで時間がない場合は、銀行・支払承認・給与・請求・データ保存を優先してください。
Q2.引継ぎマニュアルはExcelだけでもよいですか?
はい。最初はExcelの業務一覧と保存先の説明で十分始められます。ただし、更新担当と最新版の保管場所を決め、閲覧権限を適切に管理してください。給与など個人情報を含むファイルは、一般の経理マニュアルと分けて扱うことをおすすめします。
Q3.会計ソフトのIDとパスワードを後任者に渡せばよいですか?
単純な共有は避け、ソフト会社の規約や管理者機能に従って、後任者用のアカウントを作成・権限付与してください。前任者の退職後は不要なアクセス権を停止します。銀行やクラウドの管理者が誰かも確認しましょう。
出典:IPA|中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版
出典:個人情報保護委員会|アクセス制御に関するFAQ Q10-18
Q4.引継ぎ前に帳簿の数字が合っていない場合はどうしますか?
まず、基準日と差額を記録し、銀行明細、請求一覧、未払一覧などと照合します。原因が分からないまま仕訳を変更したり、差額をまとめて消したりするのは避けてください。会計処理や申告への影響がある場合は税理士に確認しましょう。
Q5.経理担当者がいない会社でも引継ぎ対策は必要ですか?
必要です。社長が一人で経理をしている場合こそ、急な入院や長期不在に備え、請求先、支払日、銀行の正規の連絡先、会計資料の保管場所を会社の管理資料として残しましょう。将来の採用や事業承継にもつながります。
まとめ|経理の引継ぎは「人から人」ではなく「会社の仕組み」へ
経理担当者の引継ぎで大切なのは、①業務・期限・承認者を一覧化する、②証憑・データ・権限の所在を確認する、③後任者が実際に作業して未解決事項を残す、という3点です。まずは今日、直近1か月の経理作業を紙に書き出すところから始めてみてください。
「何を聞けばよいか分からない」「担当者が退職する前に経理の現状を整理したい」という段階でも構いません。ぴくさぽでは、開業前の相談から、記帳・給与・バックオフィスの業務整理まで、状況に合わせて次の一歩を一緒に考えます。

